高原リゾート地における近年の宅地化の特徴に関する研究
土子裕
1、 背景
近年、八ヶ岳南麓の農村地域に近年、ブームとなっている田舎暮らし者等をはじめとする様々な移住者の宅地化が進んでいる。その為に農村の住民は農村独自の雰囲気・空間が破壊されるといった乱開発が行われるのではないかと不安を抱えている(図1)。
2、 目的
しかし、乱開発が行われるといってもどのような開発なのか、また実際に農村において新たな宅地化がどこに、どのように建っているのか全く実態が分かっていない。その為に本論では近年の住宅の宅地化の現状を調査、分析し、その現状の景観的特徴を明らかにすることを目的とし、その為の指標として立地と建築景観の2つの指標を元に宅地化の景観的特徴を明らかにし、またその現状を踏まえた上で農村にふさわしい宅地化とはどのようなものなのかを考察することを目的とする。
3、 対象地の選定
本論での対象地は山梨県八ヶ岳南麓地域の長坂町を対象とし、調査・分析を行う。
4、 調査方法
まず、宅地化の現状を知る為の方法として、長坂町では1988年以降社会増加率がプラスになっていることが表から分かる(図2)。調査方法1988年〜2002年までを調査期間とし、まず1988年と2002年の住宅地図を用い、新規に宅地化された場所を見つけこれを1/10000の平面図にプロットした。その後にプロットした場所を林地内を一部除く全ての宅地について現地調査し、これを元に立地の特徴や景観的特徴を分析する。
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住宅地図より選定 平面図にプロット
5、 用途別建築物の定量的調査結果
それではまずは用途別の建築物について地図上で定量的に調査を行った。すると13年間で903軒の宅地化があり、今回対象とする住宅は540軒と全体の61%を占めていることがわかる(図3)。
6、 立地に関する現状・景観的特徴
これを踏まえ、宅地化の景観的特徴を調査・分析するにあたって立地に着目することにした。立地に着目した理由としては農村には大きく林、農地、集落から成り立っており、この立地によってそれぞれの景観的特徴があるのではないかと仮定したからである。そこで立地パターンを林地、集落内、集落型、農地と4つの分類とする。ここで、集落型立地とは集落以外での農地と林地の境界上に立地しているものとここでは定義する。

林地立地 集落内立地 集落型立地 農地立地
(※)集落内、集落型は林地と農地の境界上に立地している
7、 立地に関する定量的調査結果
このように4つに分類を行い、調査を行うと林地への宅地化79%ともっとも多いことが分かる。また、農地への宅地化も12%となっており、従来農村で宅地化が行われていた集落内や集落型といった林と農地の境界上への立地は合わせても9%と少ないことが分かる(図4)。
8、 林地立地
集落内や集落型立地は従来、農村で人々が集住する為の場所であり立地のみでは農村景観に影響を与えないと考えた。それでは現在、宅地化の進んでいる農地や林地への宅地化はどのような景観的特徴があるのだろうか?林地立地はもっとも宅地化が進んでいたが長坂町においては北部の標高800m以上の地域に多く点在している。またまとまった宅地化は少なく、景観的特徴としては宅地周囲を林で囲まれている為、建築物の輪郭や外壁が隠れ目立ちにくくなっている。

9、 林地立地の問題点
一方、林地立地の問題点としては集落後方の林地の開発であり集落後方の林地への開発を行うと集落景観が破壊されてしまう恐れがある。
また、林地内は一般的には宅地が目立ちにくいが林地内の一区画を開発する場合、敷地面積が大きいと宅地は目立たないが同じ区画に多くの宅地化が起こると戸々の敷地面積が小さくなり林地が少なくなることで景観的問題となってしまう。

集落後方の屋敷林を開発した場合
一区画の敷地面積が小さい場合
10、 農地立地
農地立地の景観的特徴としては周囲が農地でひらけている為、宅地が目立ってしまうということである。また斜面や小高い場所での宅地化は眺望が良い反面、さらに目立ってしまう。

11、建築景観における景観的特徴
このように立地においては4つの立地パターンから景観的特徴を明らかにした。次に建築景観について特徴を明らかにするのですが近年の建築物は建築様式が明確でない。そこで私は屋根の構造と外壁の複雑さで分類できるのではないかと考え、集落内、集落型、農地立地の3つに立地している全ての建築物について現地調査を行った。
12、建築景観における分類
ここで林地へ宅地化された建築物は確認できない建築物が多い為、ここでは対象外とする。表の横軸を壁面のディテール、縦軸を屋根の面積・数として写真を配置するとここで3つの大きな分類に分けられることができた。それを農村型建築物、現代型建築物、ビラ風建築物と分類する。これらの分類で大きく異なる要素は外観からみた全体の構造の複雑さであり、農村型は表面のディテール・屋根の構造が複雑になっているのに対し、現代型建築物は全体的に単調です。伝統的農村集落の既存の建築物を見ると屋根が大きく、比較的農村型建築物に似ていることが分かります。また外壁が植栽で見えにくくなっており屋根が目立つという特徴がある。

伝統的農村集落の建築物
13、色彩について
次に色彩についての特徴を考察を行った。屋根と壁面の図の建築物の写真を見ると農村型建築物は彩度、明度が低いのに対し、現代型建築物は彩度、明度が高くなっている。農村の農地や林地は明度、彩度の低い色彩となっている為、現代型建築物の宅地化は周囲から目立ってしまう(図5)。
14、建築景観における定量的調査結果
これらのことを踏まえた上で定量的に宅地化の現状を調査したのが次の図である。101軒の建築物について調査を行うとそのうち60%が現代型建築物であった。さらに立地別にみると集落内での宅地化も農村型よりも現代型建築物が多くなっていることが分かる(図6)。
15、結論
本論ではまず立地に着目し4つの立地パターンからそれぞれの景観的特徴を明らかにし、農村景観に影響を及ぼすものとして建築景観についてそれぞれの景観的特徴を明らかにした。
16、農村宅地化モデルの提案
以上の立地、建築景観について特徴を明らかにした上で農村にふさわしい宅地化とは一体どのようなものかということを具体的に考察を行った。
・全ての立地:農村型建築(伝統農村集落の建築物)に学ぶ。
できるだけ建物背面に高木を設置
外構植栽によって建築物の外壁を隠す
屋根が主役(面積・勾配を大きく)
壁面を複雑(ディテールと凹凸)に
色彩(低彩度・低明度の材料を取り入れる)
・農地立地:農地への立地は避ける。
・林地立地:個々の敷地面積が小さな集団的開発を避ける。集落後方の林地内での開発を避ける。
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2003.4.4